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シメル和食器
いきなりですが今回のお題は「シメル和食器」
「な~るほど、今回は蓋のある器のお話しね♪」
と、ピーン ときたつもりでも外れです(^^;
よろしければお付き合いください。
平たいは至難の業
プロもうなるお皿
ちょっとこの器をご覧いただけますか?
ご存じの黒波目楕円特大皿です
この大皿、なんとCD5枚分の大きさ60cm以上の大きさで、テーブルセンターなどに配置してコーディネートすると最高の和食器です。
実は、さんすいに来店する器のプロたちを唸らせています。
なぜか・・・それは・・
平たいのです。
それもほぼガタツキがない水準。
エッジはお皿らしくせり上がっているのに ほぼガタつかない。
エ?
だから何よって?
いえいえ(^^;
ご存じのように土物和食器(陶器)は粘土を捏ねて作るのですが、大量生産の陶磁器のような液状に近い状態で型に流し込む方法とは違い、粘土はどうしても密度にあちらこちら差ができるんですね。
例えばご趣味で陶芸を嗜む皆様が真似をしますと、このお皿の五分の一くらいの大きさの長皿でも見事にゴロンゴロンに捻じれたり反ったりします。それくらい難しい。
だからプロをうならせるんですね。
練るだけでは
一辺が30cmくらいの四角の皿でも、普通の作り手なら窯から出した後にあっちこっちガタツキがあったりクルクルと独楽のように回ったり、それでグラインダーで裏を削ったり、お皿の下に足を付けたりします。
ところがこのお皿というかこの黒波目シリーズのお皿は、ほぼ削らなくても良いのです。 私共で砥石で少し削りサンドペーパーで丁寧に磨く程度です。
まさにガタツキ調整係の私にとっては神様の器のような存在。 おもわず膝をついて万歳したくなります。
陶器は、どんなに練っても密度に差が出るので場所によって収縮率が変わってくる
でもできる限り均一にするよう、一生けん命こねるわけです。
ところがいくら練っていてもそれだけではダメなわけですね。
以前NHKさんの朝ドラでも主人公が懸命に土を練っている風景が印象的でした。 (あの細腕じゃ無理だろ・・・なんて少し意地悪くつぶやいたものですが、そこはドラマですから。)
名人の平たい和食器作り
さて、先ほどの黒波目シリーズにお話しをもどしましょう。
平たい和食器作り
作り方は、蕎麦を切る前のよう土の板を「タタラ機」という機械で土をローラーで圧力をかけて何度も伸ばして板状にします。
もちろんその前にしっかりと手でねっているし、ローラーで圧をかけいるので土の中の空気も抜けて締まっています。
それを型紙に合わせて切ります
そしてすべてのエッジ部分を上に「手で」少しずつ上げて、皿の形にしていくのですが・・・
普通にあげていると曲げたところ(コーナー)は伸びるので土が伸びて当然ですが土の密度が低くなるわけですね。
これが窯で曲がる一番の原因となります。 作り手はこれを窯で「暴れる」と表現します。
焼成後の窯を開けたらクニャリと曲がっていたらショック!ですよね。「あばれる」とはピッタリの表現だと思います。
そこで名人たちは、真上から見た四隅をギュっ!と手で締める動作をして密度を上げます。 このコーナーの密度が高いとその部分の強度が増してせり上がった胴体が窯の中で垂れてしまう事を防げるわけです。
この胴体が窯の中で動けば当然ですが底面もつられて動きます。で、歪んだガタツキのあるお皿になってしまうわけです。
とわかった風に口で言うのは簡単ですが・・・
【おとなの和食器屋 さんすい】で、見事に平たく美しく作られた代表的なシリーズは
黒波目シリーズの器4種ほどです
焼成や乾燥で曲がる?
ご存じのように1200度以上の灼熱の窯の中の器は、飴のような状態なんです。 ちょっと油断すると曲げたエッジが落ちてきます。
これはどんなお皿でも器でも一緒です。
普通お皿やお碗がが、器の中心から遠い部分ほど薄いのは自分の重さに耐えられずにペロリンと落ちてしまわない為でもあるのです。
焼成の前に乾燥という工程があるのですが、実はその際は逆ぞりのような状態になり、焼成して冷えて真っすぐになる。そこは長年の経験がモノを言う世界。
何よりこの「ギュっと締め」ながらエッジを上げていく名人芸で、これほどの大きさのお皿を歪(ひずみ)なく創り上げるその技術は見事なものです。
ロクロ作りの締め
さて、作り手はロクロで創作する時も、「締める」という言葉を使います。
それは割れやすい部分。 カップなどでいえば飲み口です。
土物和食器は密度が高いほど硬いわけですが、飲み口やお皿のエッジは胴体に比べれば薄く作られているわけで同じ密度ならかなり弱くなってしまいます。
そこで作り手は飲み口を作るときにギュっと力を入れます。 これを「締める」と言います。
こんな感じ。 これは乾燥途中のもので手の形だけデモンストレーションしてもらってます。
同じ土(材料)なら「型」で作った器より「ロクロ」で手作りした物が強いと言われるゆえんです。
陶芸教室などで、生徒さんがプロの先生と同じようにロクロを回して同じような形に茶碗を作って、
約800度程度で素焼きしたまでは綺麗に同じで「シメシメアタシも一人前だわん」などと思います。ところが・・・
いよいよ1200度以上の本焼きすると綺麗に形を保っている先生の作った茶碗に比べ、生徒さんのそれはフニャリと楕円になっていてショックを受けます。
これも「締め」がきちんとできているかどうかの差だと先生はおっしゃるわけです。
締める和食器まとめ
今回の「シメル」は「湿る」でもなく「占める」でもなくちょっとおっかない「絞める」でもなく
「締める」でした。 ネクタイを締める・心を引き締めるのシメルです。
あるスポーツ選手が「当たり前の事を当たり前にできる事がプロの前提条件」というお話しをされていた事があるのですが、平皿だって
土物和食器の世界で「平たい」という当たり前の事が当たり前に平たくできる事は意外に大変な事だというお話しでした。
和食器は、見た目だけではわからない深い魅力がありますね。
今回の「和食器の締める」はそんな魅力のひとつと言えるのではないでしょうか。