ルージュな和食器
お正月やお節句、お花見などの特別な食卓から、ちょっと元気が出ない時に心に「喝」を入れてくれるのが赤系の食器ですね。
今回はその中でも口紅のようなルージュ(フランス語の赤)を表現できる特別な赤色の釉薬である辰砂(しんしゃ)について少しお話しさせてください。
同じ赤系の和食器でも辰砂は特別な釉薬で、作り手にとっては超じゃじゃ馬やオテンバ娘とよく例えられる釉薬で、器の一部に使う事はよくあるのですが、全体や表をすべて綺麗に辰砂となると正直後ずさりする作り手が多いですね。
辰砂は、実は緑色の織部と同じ種類で「銅系」の釉薬です。 ちなみに有田焼きなどで皆様よくご存じの青い呉須という釉薬は「コバルト」、懐かしく素朴なテイストの茶色い飴釉は「鉄系」です。
同じ系統の釉薬で辰砂の赤や織部の緑に分かれるなんて、ちょっと神秘的にも感じられると思います。
それでは以前のNHK朝ドラ「スカーレット」でも登場した鮮やかルージュの辰砂について少しだけ。
辰砂の器を焼く
酸化焼成と還元焼成
ところで和食器の焼成方法
には大まかに
*窯の中に十分な酸素を送る酸化焼成
*窯の中の酸素を少なくする還元焼成
の二つがあります。
私たちの身体は十分な酸素があると安定します。
例えば鉄も自然界では酸素が十分あるので、放っておくとどんどん酸素とくっついて酸化鉄になっていきます。これが俗に言うサビですね。
英語ではstein(ステイン)汚れと言ったりしますが、鉄にスズなどを混ぜて錆(さび)にくくしますとカフェインレスならぬステインレスな金属になります。これがご存知のステンレスですね。
おっと脱線脱線(^^;お話を元に戻しましょう。
不安定な還元焼成
酸素がないと悶える(>_<)のは私たち動物だけではないらしく、例えば鉄などの成分も同じで、灼熱の窯の中で酸素を求めて器の外に出ようともがくわけです。
そのもがいて液状やガス状になって出てきたのが粉引などの御本手などの窯変として現れるわけです。窯変(ようへん)などが出ている変化に富んだ和食器の多くは酸素の少ない還元焼成というわけです。たとえばこんな器は、最後に適度に還元焼成してできあがります。その加減が難しいのです。 赤みの変化あるテイストが窯の最後で行う還元焼成の微妙な加減で決まります。
この器↓は赤い辰砂ではなく白い粉引きの器ですが、シンプルではない味のある粉引きの表情を求めて還元焼成をやや強めにかけます。
↑ 窯変(御本手「ごほんで」とよばれているオレンジ色)が強めに出た風景
↓ 窯変がほぼ出ない場合の風景(それでも還元焼成をしてるから柔らかな色に仕上がっています)
↑この柔らかな白さは還元焼成をしているからで、もし還元焼成をしないとペンキで塗ったようなテイストのマッチロケ(真っ白)の面白くない器となります。
還元焼成は元々の自然界で物が燃える状態ではない状況を意図的に作るわけですから、ちょっと油断すれば酸素が入って自然に戻ろうとするわけで、そこは実に微妙な調整が必要で、還元焼成を完璧にコントロールできる名人を私はまだ知りません。
また「窯変もの」は、お客様によって好みがわかれるので、特に通販では販売が難しく手間がかかる品でもあります。 例えば私(店主)は写真上の窯変たくさんが大好きですが、女将は控えめの下の写真のような品が好みです。 【おとなの和食器屋】さんすいでは、ご予約後の入荷でお客様に写真でご確認いただくことも多々あります。
アラアラ・・またまた脱線してしまいました。申し訳ありません。
辰砂は還元焼成
大雑把に申し上げると、辰砂は銅系の釉薬を施して還元焼成する事でできるわけですが、同じ銅系でも酸化焼成をすると緑の織部となります。
安定した焼き物の色合いや風合いを出すのが大変難しい還元焼成で作られる辰砂の赤は、ともすればムラの多いひとつひとつ個性が極端に強い和食器となってしまい、思うような結果が出ないために、作り手の少ない品となってしまいます。 また画像でお買い物をしていただく通販でも取り扱いしずらい和食器なんです。 その意味では、辰砂の和食器は貴重な焼き物だと言えるのではないでしょうか。
手前味噌ですが、【おとなの和食器屋 さんすい】ではシンプルな色合いの辰砂の器から、やや変化ある辰砂まで比較的安定して制作できる和食器を企画しています。
そういえば以前、NHK朝ドラの「スカーレット」で主人公の連れ合いが展覧会に出品した赤一色の大鉢は間違いなく辰砂でした。
あの大きさをアレだけ綺麗に辰砂ルージュ一色に焼くのは至難の技。相当な失敗も重ねたものと思われますが、そこはドラマですので(^^;
辰砂ルージュは織部グリーンと兄妹関係、違いは窯への酸素量の違い(酸化焼成と還元焼成)というわけです。(かなり大雑把ですが)
辰砂の色
一言で「赤」と言っても色々で
●オレンジの朱赤
●赤いハチマキなどの真赤
●口紅の紅赤
もちろん、これ以外にも様々な赤がありますね。
辰砂の色はこの中でも口紅の色を少し暗くしたような色。
真赤より「静かな情熱を持った魅惑する大人の赤」とでも申し上げておきましょう。
日本の古代色である緋色より赤身が強い感じで、紫を帯びた紅色のマゼンタを少し暗くしたような感じでしょうか。
英名ではスカーレットからクリムゾンレッドといったところ。
同じ辰砂でも釉薬の配合や温度帯、また窯ごとにふり幅が比較的大きいのが特徴です。
このふたつとも辰砂釉ですが、汁碗は明るめにできた時の品です。
辰砂の和食器テーブルコーディネート
同じ赤でも艶(あで)やかな赤色ですので、辰砂ばかりテーブルに多種類あるとちょっと強すぎるかとも思います。
女将が心掛けているのは、
*赤絵中心にテーブルを作るのならば他の赤絵も入れると綺麗
*この辰砂だけなら1ポイントや2ポイントだけにすると綺麗
強めの赤と言っても、朱赤に比べると落ち着いた色で、適度な光沢もありますからガラスとの組み合わせも悪くない印象です。
落ち着いた赤という事で、ページでもご紹介しておりますように黒い器とも相性は間違いなく良いですね。
それでは色々な辰砂もどうぞお楽しみいただきますよう