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器の寿命
プロローグ
ある日の夕食時・・・
台所から悲鳴
女将:いや~ん、バカ~~っ も~っ!
店主:あ、ゴメン。悪かった。もうしません。
(反射的に先に謝っとく)
女将:違う~っ!アタシがバカ~
(大切にしていた呉須(ごす)の取り鉢にきっぱりとヒビ)
女将:(ため息) 気に入ってたのにぃ・・・
店主:お気に入りほどね、不思議とやっちゃうね。
女将:なんでだろう~(半泣き)
店主:そりゃよく使うしさ。
だからさ、大切な物は知らんぷりが一番。
女将:無理よそんなの
店主:知らんぷりしてりゃ食器も棚で永遠に生きながらえる
女将:ソレ、生きてない。って言うか活きてない。
店主:つまりだな・・・人生と同じじゃ・・
(↑いい事言ったとドヤ顔)
女将:んじゃ誰かさんにも知らんぷりしとこ。長生きしてもらいたいから。
店主:や(汗)やめてくれっ、かまってくれぃ。ぐれちゃうぞぃ。
こんにちは。 【おとなの和食器屋 さんすい】の店主乙木(おとぎ)です。
食器、大切にしたいものです。人生の連れ合いも。
大切な和食器の強さ
「大切」とは
大切・・・私たちにとって大切なものは沢山ありますが、このコラムを読んでくださっているあなたは、きっと「器を大切」と思っていらっしゃると存じます。
ところで「大切」たいせつとはどんな意味なんでしょう。
本来は大いに「切迫した事態」「緊急な様子」そこから変化して現在の大切つまりかけがえのないもの、自分にとって価値のあるものと変化していったといわれているようです。
元々の読みは「おおぎり」なんだそうで、歌舞伎などの最後の幕の最後の場面の事で、なるほどだから「切迫した事態」という事でしょうか。
そういえば超長寿TV番組「笑点」の最後も「おおぎり」。 でもこちらは「大喜利」(笑) 多分当て字かなと思っています。
さて器の寿命ですが、これは二つの事で決まります。
それは「器の質」と「使い方」です。
磁器の強さ
一般的には
密度が高い→強い 厚みがある→強い
となります。
磁器は原料をきめ細かな粘土状にしたり泥状にして高い温度で焼き上げます。超細かな粒子つまり大人数の仲間がギュッと手を繋いでスクラム組んでいるようなものですので強いですね。
砥部(とべ)焼などはその強い磁器をさらに分厚く作りますので簡単には欠けない割れない恐ろしく丈夫な器となるわけです。そのかわりかなり重くなります。
陶器の強さ
それに対して陶器(土物和食器)を作る土は、粒子が荒く密度が低いわけで、時にはテイストを表現する為に荒い砂まで混ぜるくらいです。 荒いということは、中に無数の空洞があり粒子が大きめでつながりが少ないというわけで磁器に比べれば弱いという事になります。
前述の砥部焼などは別として、磁器の食器が一般的に薄いのは、「薄く作れるから」なのです。
逆に陶器の原料である陶土(とうど)で同じように薄く作ると、お姫様を抱っこする様に大事に扱ってそれでも短い寿命となる事でしょう。
詰まるところ陶器が一般的に陶器がぽってりしているのは「厚く作らないと強度を保てないから」ともいえるわけですね。
ポッテリしてるから英語でポタリー:potteryというわけではありませんが。
寿命を延ばす
使い手次第
以前から繰り返しご案内をしていますが、「食器を割らないコツ」という記事を投稿していますのでご参考にしていただければ幸いです。
これまでに概算しても7~8万個の和食器やガラス食器を皆様にお届けしていて、出荷前の粗相やプライベートでの粗相も経験したわけですが、やはり一番大切なのは
「持っている器から目を離さない」
正直なところ、このひと事につきると思います。
愛する人からどんなに懇願されても(笑) 器を持っている時は目は→「器」です。
最近粗相をしてしまった。なぜかウチでは食器がすぐ割れちゃう。 という方は少々ご退屈かもしれませんがぜひぜひご一読ください。
ゆっくりと使う・お手入れを楽しむ
当たり前の事だとお叱り覚悟で申し上げると、「急がない~いそがない」
私共の数多くの失敗の原因も、時間に追われて目線を切った時に起こっています。
友人の中にも器の粗相がまったくと言ってよいほどない人がいます。
確かに落ち着いてはいますが、特に心優しいかと言えばそうでもないような(笑)・・・
そんなご経験ありませんか。
一緒に食事をしていて彼女を観察すると・・・
食器棚から器を出してキャッ!素敵
盛り付けてはキレイよねぇ
食事中は底の釉薬溜まりを褒め
洗う時は裏側鑑賞・・・
器を楽しんでいるというか、取り出しから収納するまで楽しんでいますね。
日頃、専門職の仕事として器を扱っている私共がハッとされられる風景でした。
お忙しいとは存じますが、「器を楽しむ」事が大切だと思います。
「時短」は「不安」の裏返し?
例えば・・・
スマホの大きな目覚ましアラームで起きて急いで食事の支度、身支度、家族を送り出し前後して出勤
疲れた身体で帰宅すれば食事の用意や家族とご自身のケアをして短い睡眠に・・・
毎日がいつも時間に追われて忙しい皆様が多いのでしょうか、昨今では「時短志向」が大きな顔をしています。
なんと最近のヒット曲も時短志向なんだそうで、イントロ0秒が増えているとか。
曲探しの時にイントロ長いとイラッとしてダウンロードしてもらえないからだそうです。
情報や物があふれる今、少しでも効率的に沢山の情報や物に触れて手早く取捨選択をしないと「不安」なんだそうです。
時短は「効率的・便利」と言いながら実は「不安」の裏返しでもあるようですね。
手仕事の和食器などは、「効率的」とはおよそ縁がない長い時間をかけて丁寧に作られた物が多いのですが、だからこそその良さをじっくりとご説明するべきではないかといつも思っています。
女将は私と買い物に行くのをあまり好みません。
女将は「楽しむお買い物時間」ですが、私のお買い物は「手に入れる為の時間」だからです。
これを「食器」に置き換えていたくと
このメルマガをお読みいただいているあなたは、まず「女将派」でしょう。
食べるためだけではなく人生を楽しむための器。
イエイエ(笑)店主だって器に関しては同じです。
和食器の寿命 まとめ
和食器の寿命には、「器の質」と「使い方」の2つの要素が関わってきます。磁器は密度が高く厚みがあるため、一般的に強度があります。砥部焼などの磁器は特に分厚く作られており、割れにくく丈夫です。一方、陶器は粒子が荒く密度が低いため、磁器に比べて弱くなります。陶器の場合、厚く作らないと強度を保つことができないため、一般的にはぽってりとした形状となります。 つまり和食器の寿命はその器の質(種類)によって左右されます。
しかし、ただ寿命が長いだけを基準にすれば、人も器も空しいもの。 大切な事は「好きな器」を「長く愛用」する事ではないでしょうか。
和食器の寿命を延ばすためには、私たちの使い方も重要です。
器を大切に扱い、目を離さず注意深く使用することが大切です。また、ゆっくりと使い、お手入れを楽しむことも寿命を延ばすポイントです。時短志向が強まる現代でも、手仕事の和食器は時間をかけて丁寧に作られているため、その良さをじっくりと楽しむことができます。
和食器の購入においては、食器を楽しむことを重視する方や女将派の方にとって、お買い物は時間を楽しむ大切な瞬間です。店主も同様に、器に関しては同じ思いを持っています。
和食器はただ食事をするためだけでなく、人生を豊かに楽しむための大切な存在です。その強さや美しさを大切にし、末長く愛用していただければ幸せです。