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女将が知らない和食器の貝の世界
ある日の午後・・・
エ~~~~ちょ~っと(T_T)これなぁに~~~
女将が悲痛な叫びをあげています。
ハァ・・?
新婚当時(30年くらい前)ならすっ飛んで駆け寄って行った店主も、いまではPCから顔を上げてゆるく「ドシタの?」と聞くだけです。
目跡
鳥の足跡に見える
女将:ほらほらこんなの
店主:ドレドレ? あ~コレ。 これはだな・・・
女将:・・・何ですか?(固唾をのむ)
店主:鳥が歩いた跡・・・
女将:ハ?
店主:店主は知っています。
これ実は目跡(めあと)と言います
この横線のような印は、実は貝殻の跡。 傷ではありません。
釉薬の隙間などに、焼成前にチョコンと乗せて窯に入れます。
すると貝の塩分と反応して緩い緋色の景色など出たりします。
萩焼の高台周りが緋色なのは、この塩分の塩釉によるものです。萩焼の場合は貝ではありませんがこんな感じで、この和食器の場合は藁(わら)灰釉の白い優しさとのコントラストが面白いです。
さて、先ほどの貝による目跡(めあと)にお話しを戻しましょう
目跡と貝
この足跡のような模様は石灰が主成分ですので、年月とともに無くなって目立たなくなります。
後に作り手に聞きましたところ「猿頬貝」(さるぼうがい)という赤貝の仲間を使っているとの事。
貝殻も身も赤貝とよく似ていて、地方によっては赤貝と呼んでいるほどです。 ちょっと小ぶりですが、美味しいですね。
貝殻は漆喰の原料のひとつであるとも聞き及びます。
器の下に貝を置いて器を支えて焼成する「貝目積み」というやり方もあります。 この場合、裏にも貝の模様が入ったりして綺麗ですね。
茶陶などでは茶碗の畳付き(糸底)にある目跡なども「見どころ」として大切に鑑賞するようです。
実は【おとなの和食器屋 さんすい】には貝による窯変を楽しめるお品もあります。
どちらもお皿の真ん中に貝を置いて金色の窯変をねらっています。
これも良く見ると時々目跡が見える時があります。
貝殻の目跡は、ぐい呑みなどを意図的に横にして焼成する時に置いて固定したりする時も使います。
その他、窯の中でぐにゃりと落ちてしまう器を支えたり、器を縦に重ねる「重ね焼き」に使う道具土の跡も目跡と呼びますが、それについては別の記事
和食器の「縁の下の力持ち」 というページでご案内しています。
芸術は遊び心
いかがでしたか?
すべては作り手の「遊び心」「少々の茶目っ気」から生まれるもので、それができるのも小さな工房の手作りならではないでしょうか。芸術は「遊び心」などと申しますが、それは「心のゆとり」から生まれるもの・・・
そして「心のゆとり」は「お金のゆとり」だけでは決して買えない事
そんな大切な「心のゆとり」を皆様にご提案できればと、「平成」最後の週末に、そんな事を思う店主と女将なのでした。