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白い和食器「粉引き」のお話し
今日も元気にお仕事する店主と女将・・・
窓の外は白い雲が悠々と流れる・・・
自由な雲を見ていて、ふと逃げ出したくなる店主
店主:アヅイ・・・(-o-;)
女将:仕事してる最中に暑くなる事言わんといて!
店主:仕事してないけどアチィ・・・(`o'”) だから仕事できない
(本当は雲になりた店主)
女将:ひょっ・・・として・・・熱ある? 37.5℃
店主:ナイ!無い!ありません! 仕事します!
皆様こんにちは。
今回は四季を通じて雲のように白い「粉引き」の和食器について少しお話しさせてください。
最初から変なお話しですが、例えば織部焼きの緑は、緑以外の色はすべて吸収してしまうような素材の釉薬といえます。光のなかの緑の波長(500~550ナノメーター)だけ反射してしまうので緑に見えちゃうというわけ。
ナノメーターは、10億分の1メートルつまり100万分の1ミリでしょうか、少々頭が痛くなります。
色彩としての「白」は、赤黄緑青紫(虹を思い出してください)など、ほぼすべての色を反射するから白く見えちゃうというわけ。だから明るい。
明暗も含めてコントラストとしてお料理やデザートなど食材の色を浮き立たせますよね。 また、光をよく反射させる為に、比較的暗い環境でも白い和食器はお料理を明るく見せる効用もあるわけです。 鉢の奥深くのお料理も明るく照らしてくれます。
こんな感じ↓
白は清潔なイメージ
白という色は、感覚的には汚れていない清潔なイメージ。 医療関係者の服に白が圧倒的に多いのはこの衛生的なイメージからでしょう。
余談ですが、医療で白服が始まったのはほんの百年くらい前からとの事で、「公衆衛生」の概念が定着してからのようです。
その前は宗教色も強かったのでしょうか黒服が主だったそうで。 公衆衛生を強く求めたのは何と言っても疫病との長い戦いの歴史の結果であった事は間違いありません。
お料理映えだけではなく公衆衛生を求めてきた意識が、白い器を魅力的にみせているのかもしれませんね。
「コロナ」のような疫病と長年戦ってきた人類が「公衆衛生」に目覚め、清潔さを「白」という色に求めそれが無意識のうちに現代の「粉引きの白」の魅力のひとつともなっていると私は思うのです。
和食器の粉引きとは
さて、本格的な手仕事の和食器はこれからという方は、
「そもそも粉引(こひき)って何よ」
と思ってらっしゃるでしょう。
【おとなの和食器屋 さんすい】の白い器のラインナップのページをご覧いただくと「粉引」のお品が沢山出ます。
粉引きの構造
そもそも粉引き(こひき)とは
和食器は、最初に素地の土を練り成型して乾燥、素焼きするわけですが、この上に白い土(化粧土)をかけてその上から透明釉を施し、再度乾燥させて本焼成した白系統の器が、粉引の和食器となるわけです。例えば白磁は素地そのものが白いわけで、
粉引は一番表面から
透明釉
白化粧の土
素地土
の三層構造というわけです。
【おとなの和食器屋 さんすい】の粉引の器のラインナップの中でこの三層構造がとても分かりやすい器があります。
粉引仕切り中皿という器なのですが、このユニークなデザインのお皿の裏を見ていただくと・・・
お料理が乗る表はとても綺麗な雪のようなテイストの白い粉引きです。 写真は裏の眺めですね。
中心部分は釉薬がなく、いわゆる無釉の部分で素地の色。その周り裏の部分が透明釉が施された部分です。そしてエッジに少し見えているのが表に続く白い粉引きの化粧土を施した部分。
施釉(釉薬をかける)の時には、まず形成して乾燥した素地の表(お料理が盛り付けられる部分)に白い化粧土をかけていきわたらせ、低い温度で素焼きして透明釉の壺のなかに器をさかさま(写真のような向き)で途中まで漬けます。 すると写真のように釉薬の掛かっていない部分が残ります。 乾いたらこの無釉の部分を下にして本焼成で、出来上がり・・・
和食器を使うときに、こんな事を想像しながら思いをはせるのも楽しいものですね。
その他
例えば「白釉~」と名前がついている和食器は、釉薬本体が白いわけで素地土+白い釉薬の二層構造なので粉引とは違います。
さてそれでは、粉引の白い化粧土の成分なのですが「カオリン」というケイ酸塩鉱物が主な成分で、その名前は中国の地名「高嶺:Kaoling」に由来しているといわれています。
磁器を使えなかった人々の憧れから生まれたという説もありますが、白い化粧土による器は古陶として中東などにみられ世界中で行われてきた可能性があります。日本の粉引きは中国から伝えられたといわれ、茶器などでも名品がみられます。
粉引きの「白い」という魅力
何と言ってもその白さで料理やデザートの色映え、そして光を反射する事による食材の明るさは他の色にはない魅力でしょう。 また先にご説明した「清潔なイメージ」も忘れてはいけない長所だと思います。
一般的に土物和食器物の粉引の白は、白磁の透明感と光沢ある白とは対照的に「光沢を抑えたアイボリーホワイト」である事が多いようです。
それぞれにお好みもあるとは思いますが、粉引きの優しい白は冷たい印象を与えず、「温かな白」としてオールシーズン活躍できる器を創り出す原動力となっています。
粉引きという器の弱点
弱点その1:染みやすい
お話ししましたように、粉引きの器は「素地+白い化粧土+透明釉」という三層で成り立っています。
白い化粧土は、素地と透明釉に挟まれた乾いたファンデーションのようなイメージですね。
透明釉は完全に器を覆うわけではありませんので、ところどころ小さな穴(ピンホール)があります。
ここから水分が入るとファンデーションが濡れてグレイになって丸く染みのようになります。 水ならば乾けば元通りなのですが、油分や色素ですとそのままとなります。 これが染みの正体です。
少し乱暴な言い方ですが、実は少なくとも土物和食器は染みているのですが、粉引のように目立たないだけだと言えます。 色白の方が染みを作ってしまうと目立つのと同じです。
茶器なども貫入(透明釉のひび割れ模様)からお茶が染みて模様を作りますが、こちらは風景として愛されています。
染みを防ぐ方法
1.湯通しする
「お鍋に器とヒタヒタの水など入れて煮立たせて一晩置く」お湯にでんぷん質のものを入れるという場合もあります。 昔からの古い方法なのですが、直火使用の器を除いて私共はお薦めしていません。
器全体に水が周ってグレイになり、なかなか元に戻りづらくなったり、でんぷん質は直火で使う耐熱和食器をのぞいてカビや菌の繁殖原因になりかねず衛生面からお薦めできないのです。
湯通しすると「器が締まる」と言うお話もありますが、試してもほぼ実感ないというのが私共の正直な感想です。
2.使う直前に軽く水に浸す
先に水を染み込ませて油分などの侵入を防ぎます。 強い予防法とはいえませんが、粉引以外の和食器でもお薦めをしています。
3.水止め処理をする
これは工房や私共で行う事です。 水道水にも含まれるケイ素(Si)の溶液を染み込ませると、ピンホールや素地部分に染みてやがて乾きます。 空気中の二酸化炭素と結合して二酸化ケイ素SiO2 といういわゆる鉱物となって器の内部で固定します。 器の外側についたものは洗うと取れてしまいます。
私共でお届けする粉引きの器は現在ほぼ主流になっているこの方法で水止め処理をしてお届けしています。
数十年前の花器などに使われていた石油由来の材料によって器全体を膜で覆ってしまうような水止め方法は現在ではほとんど使われなくなっています。 この方法は極めて強力で長持ちしますので花器では現在でも使われているようです。
弱点その2 剥がれやすい
これは作る側の長年の問題でもありました。 普通に考えても素地と透明釉の間にお粉のような白い化粧土が挟まっているのですから、ポロリと剥がれやすいような気がしますが、実際のところ20数年前まではどの作り手にとっても難題で、染みの問題も重なって粉引きの器作りを敬遠する作り手も多かったくらいです。
しかしこの物理的に弱い(剥がれやすい)という問題も原料や焼成の仕方など様々な試行錯誤を重ねた結果、現在では普通の土物和食器とほぼかわらないくらいの強度に作れるようになりました。 これは私共にとっても安心してお客様にお届けできる本当に大きな事でした。
このように「染みやすい」事と「剥がれやすい」事は、皆さんの努力と技術の向上によってほぼ克服されています。
その他、これは粉引きに限らず磁器なども含め全体的に白い和食器に共通して言える弱点なのですが・・・↓
弱点その3:補色残像
お手元の口紅の横に白い紙をならべて、口紅のルージュだけを10秒以上見続けてすぐさま白に目を移すと薄っすらと青緑っぽく見えます。 これ「補色残像」とよばれるもので、青なら黄色、緑なら赤紫が残ります。
ちょっと実験してみましょう
下の赤い丸を10秒くらい凝視した直後に白い壁や紙に目を移してみてください
見えましたか? まばたきする度にでてくる青緑の残像。
粉引きに限らず白いモノトーンの和食器や洋食器は、食材の色が強い単色の時には実は少し別の色が混じって見えてしまう事になります。 つまり白い器は、食材で微妙に色を変える(変えて見えている)という事になります。
私どものように画像を扱っている者は注意が必要ですが、器の使い手の皆様にとってはちょっと楽しい弱点でもありますね。
イヤイヤどう・・・してもそこも気になるという厳格な方は、同じ粉引でもアイボリーホワイトの品を選ばれるなどの方法で緩和できると考えています。
余談ですが、医療従事者の手術着は白でないのはこの補色残像の問題が理由です。 血液等の強い赤を凝視しますので白い手術着だと残像がはっきりと残り術技に支障をきたすというわけです。薄い緑などが和らげるそうです。 そういえばテレビドラマなどで見る事の多い手術着は緑が多いですよね。
白い和食器「粉引き」のまとめ
現在超元気な90歳の先代店主(父)は40か30年ほど前から粉引やそれに類する和食器を取り扱ってきたのですが、父から仕事を引き継いだ当時は「粉引きは剥がれるから仕入れするな」とアドバイスされた事を思い出します。
実際その通りで、エッジが見るも無残な状態だった事を覚えています。 現在は素地・化粧土・透明釉などの工夫で安心してお届けできるようになりました。 染みが目立ちやすいという問題も防止する事ができるようになり今では、常に人気のある王道の和食器のひとつとなって、隔世の感があります。
同じ白といってもグレイ系・アイボリー系・ブルー系など微妙な差があり、通販では表現に大変手間のかかる色ジャンルといえるのですが、お料理映えや清潔感など大きな魅力がある事も確かです。
素地自体が白い磁器や釉薬が白い「白釉」(当店の呼び名です)、そして今回ご説明した土物和食器の粉引きというジャンルの三層構造な器など様々。 色々な「白」い和食器を鑑賞・想像しながら自由にお楽しみいただければ幸いです。