赤絵師 池田久男
赤絵師 池田久男
有田焼 池田傳平錦付(にしきつけ)工房 四代目
そうさねぇ・・・(そうだね)
たおやかな佐賀弁で始まるお話しは温厚で誠実な人柄そのもので、時間さえもつられてゆったりと流れていくような和やかな雰囲気の場となってしまう。
そんな池田さんが絵筆を握る時、穏やかさは一転して険しい眼光を持つ表情に変わる。
静寂の中で、筆先から生まれる一本一本の線に心のすべてを注ぎ込む気迫を感じて、こちらから声をかけることはおろか息をするのもはばかられるような迫力を感じてしまう。
明治二十年代に赤絵描きを始めた池田家の四代目
1951年生まれで40年近くのキャリアを持つ今でも、亡き三代目の「信頼される仕事はしていても、毎日が修業。絵の具の研究や技術の研鑽そして営業も怠り無く」の教えを守り、菊唐草紋、青海紋、七宝地紋などの伝統文様から独自の世界まで、その卓越した技術で様々な赤絵の世界を描き出し、私たちとの対話を忘れない。
軽やかに見えるその絵筆の走りは、どんな難しい注文にも応じてきた職人の気質と長年培われた技を感じて思わず見入ってしまう。
塗り潰しの「濃み(だみ)」と呼ばれる工程を任せている裕美子夫人との二人三脚。 工房の美しい赤絵の器たちは、夫婦二人だけの静寂な時間の中からひとつまたひとつ時間を惜しまない手仕事で生まれてゆく。
サントリーさんのCMモデルに。「背中が若かでしょうが、若っか時のむかーしの話しです」と笑う。
赤絵とギター
そんな赤絵(錦絵)仕事一筋の池田さんだが、粋な趣味人の顔も持つ。
工房とつづきのお部屋にお邪魔すると、山ほどの楽譜にギターだけでなんと六台、仕事を終えると相棒のギターたちと往年のフォークソングを楽しむ。
「(価格が)高かギターじゃなかけど、みんなよう鳴るとよですよ。また買いました。」と目を細める。
以前は高田渡さん・大塚まさじさん・加川良さんなど伝説のフォーク歌手を招いてコンサートを開いたりもしていた粋人でもある。(井上陽水さんや、吉田拓郎さんたちよりさらに少し前くらいの世代のフォークソングのスターの皆さんです)
今でも都市部でのコンサートにもかかわらず池田夫妻を慕ってわざわざ泊まりにくる方々もいるという。
赤絵の器や絵具や窯がずらりと並んだお部屋のとなりにギターや楽譜がずらり・・・
慣れてしまうとこれもまた、池田さんらしい「厳しさと優しさ」が同居した風景なのかもしれない。
いつも赤絵の器のお話しばかりで日が暮れてしまうが、いつかは自分の愛器と楽譜を担いでお邪魔しようと虎視眈々と狙っている。
比較的普段使いできる段階の品から、やがては細密画のごとき美しさを持つ作品を、「オリジナルブランドSANSUI」を含め これから皆様にゆっくりとご紹介して参ります。
文責 乙木新平