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風が吹くと器屋あわてる
こんにちは、春の嵐なんぞ言いますが、本日のお題は「風」です。
日本の四季と風という言葉
「風」をとらえる
朝帰りした時の店主は、「肩で風切る」事もなくコソコソと玄関を開けてそぉ~~~っと「風のように」寝室に入り込み、それでも受ける翌朝の女将の小言を「馬耳東風」「柳に風」のごとく受け流し、それでも「波風が絶えない」時は、何気なく甘~いケーキなどを買って帰りご機嫌取り、「どうした風の吹き回しかしらん」などと言われながらも、「今夜は風月をケーキとともに」などと「利いた風」なキザなセリフで煙にまくわけです。
ともかく「風」は四季を感じながら人生を歩む日本人にとって大切な言葉のひとつのようですが、ともすると台風や強風のように、昔からやや困った存在でもあります。
「風」が吹くと
ところで
「風が吹くと桶屋が儲かる」という言葉あがあります。
1.大風が吹くと目を悪くする人が増える
2.目を悪くする人が増えると、仕事として三味線弾きが多くなる
3.三味線の表側の猫の革が不足して (=^・^=; ちゃんが不足する
4.ネズミが幅を利かせるように多くなると桶をかじるので、桶屋が大忙し。
とまぁ、何かあると全く関係のないところに影響がでますよという言い伝えなんだと思います。
ある日の電話
ある日、九州筑後地方(福岡県南部)の作り手から電話がありました。原語通りにお伝えします。
ちなみにこの地方からはミュージシャンでは藤井フミヤさん・松田聖子さん・評論家の宮崎 哲弥さん・経済界では堀江貴文さんや少し離れてますが孫正義さん・石橋正二郎さん(ブリジストン創業者)・ジャーナリストの鳥越俊太郎さんなど多彩な有名人を輩出しています。 舌鋒鋭い鳥越さんのお話がどこかしら素朴に感じるのは、この筑後弁のイントネーションの名残を感じるからでしょう。
あらあら脱線。 作り手からの電話です(原語どおり)
いんやぁ「さんすい」さん、すんまっせ~ん。
い~やどげんもこげんもなか、やきよっ時からおかしかね~ちおもたら、な~んのこつぁなか、風が強かったでしょーが?
よ~と見たら煙突の折れて根本にこげ~んな穴のあいとるもん。 それけん、つぎんとがいっぱいになるまで1か月ばっか待ってもらえんですかね~?
*先の有名人もかつてはこんな風にしゃべっていらしたのかと思います。
ともかく翻訳します
いや~「さんすい」さん申し訳ありません。
もう言葉もなくて・・・焼成している時からおかしいなと思っていたら、何の事はない。風が強かったでしょう。
よく見たら煙突が折れて根本に穴が空いてたんです。 だから、次の窯がいっぱいになるまで1か月ほど待ってもらえないでしょうか。
店主:あのう・・・と・・・とりあえず写メ送ってください。
写真を拝見したら目が飛び出て顎が外れそうになる・・・というのは大げさですが、いずれにしても慌ててお客さまにご連絡をしたりするわけです。
和食器と窯の風
酸化と還元
エ?
そんなに違うの?
と思われるかもしれませんが、超大雑把なお話し「銅」を主成分とした釉薬を十分な酸素を窯の中に供給しながら焼成する「酸化焼成」すると緑や青になります。そう、皆様ご存じの「織部」です。
対して窯の中の酸素を少なくした「還元焼成」するとなんと真赤よりややピンクの赤やグレイになります。
辰砂(しんしゃ)です。
例えば白い粉引だと、酸化で焼けば真っ白にはなりますが、やや還元を入れていくとシットリとした透明感のある白に焼きあがりますが、これが「もろ刃の剣」。一歩間違うと窯変だらけになります。
もちろん窯変を意図して狙う事もあります。例えばこんな感じ
灰釉コーヒーカップセット これはこれで素敵なんですね。
国内で通販を中心に大量廉価で販売されている器にモノトーンや釉薬の変化の少ない器が多いのは、無難に焼き上げる事が絶対条件だからです。今の世相には合っているいるのかもしれません「無難」で「安定」。 でも「本当の和食器好き」にはどうしても物足りなくなるわけですね。 アラアラまた脱線。
穴の罪
さて、、、
先ほどお話ししました煙突の穴。
本来は長い煙突で空気が勢いよく抜けていかなければならないのが、風が強い事もあって逆流して。
焼成ガスが煙突から抜けなくなる
↓
酸素が足りない
↓
還元焼成状態になる
↓
意図した焼き上がりとは程遠くなる
という目が飛び出て顎が外れそうになる事態 ←少しおおげさ(n_n;女将
となるわけで、店主は「あわてる」わけです
とまぁ、小さな工房の手作りアスリートたちは、そんなリスクを負いながらもがんばっているわけで、そこから出来上がったお品をみるたびに
「やっぱりいいね~~~」と このお仕事がやめられない店主なのでした。
と同時にお客様にとってそんなリスクの防波堤になってるんだと自負するのであります。
というわけで
「風が吹くと器屋があわてる」というお話しでした。