この記事のカテゴリー
和食器の囁きと濁り
和食器の囁き
それは、窯のなかで焼成された後の冷却の時・・・。
陶芸をされる方なら皆様ご存じのあの時です。
千℃を超える熱で焼成された器は、水分もなくなり収縮するわけですが・・・
その際に素地と釉薬は同じようには収縮してくれません。
その違いによって釉薬には細かなヒビが入ります。これを貫入(かんにゅう)と呼んでいます。
萩焼きなどでお茶がこの貫入に染み込んで見事な模様(風景)を創りだす事は、店主の和食器つれづれ話しでも何度かご紹介しましたが、
この貫入が生まれる瞬間にチン!!と囁くような音がします。窯から生まれたての器などはこの無数の小さな鐘の音に包まれるように窯で鎮座しています。
実はこの貫入の音は、その後もしばらく続く事がよくあります。
【おとなの和食器屋 さんすい】の棚では時々「ピン・・・・チン・・・チチん!」と小さなささやきが聞こえて
例えば、初めて熱いお湯を入れたお湯のみからこの可愛い音が聞こえる事もあります。
これはコンマ数ミリの厚さの釉薬の上と下の温度差に耐えられずに釉薬にヒビが入ったり。素地が水分を含んで膨張する事で釉薬が耐えきれず貫入が入ったりすると考えられます。
といってもそこからただちに素地を通して漏れるわけではありませんのでご安心ください。
始めてお聞きになった方は、とても驚かれると思いますがこれも土物和食器ならではの面白さ。
ほとんどの土物和食器たちはそんな過程をへて皆様のもとへ届いているのです。
もしあたなたが、始めてその器をお使いになるときに、ひょっとしたらそんな器の囁きが聞こえてくるかもしれません。
ぜひお聞き逃しなく。
和食器の濁り
濁り、濁し・・・
どうも一般的にはあまり良い印象が少ない言葉ですよね。でも、和食器では決してそんな事はないんです。
最も代表的なのが、「濁手(にごしで)」
佐賀県有田焼の柿右衛門窯に伝わる乳白色の余白素地の事を濁手というのですが、
余白の多いいわゆる柿右衛門様式という赤絵がとても映えて、柔らかで上品な印象をおぼえます。
酒井田柿右衛門さんの名で検索していただくと様々な作品を拝見する事ができます。
写真では、なかなかなかなかわかりづらいですが確かに濁手あっての赤絵だと思います。
と、まぁ以上は磁器のお話し、
では土物和食器(陶器)ではどうかと言うと・・・
例えば緑の織部釉では、その釉薬の濃さ(厚さ)で
薄緑→緑→濃い緑→群青
そしてさらに濃くなると白濁します。この画像でその違いがよくわかります
織部コラム大皿で以前お取り扱いさせていただいた品なのですが、これはこれでちょっと幻想的な味がありますね。
さて、
一般的な灰釉系の釉薬でも、例えば「濁り白」などポピュラーなのですが、
【おとなの和食器屋 さんすい】のお品の中の「わら灰釉」にも見る事ができます。
藁(わら)灰釉は実はいわゆる「乳濁釉」の一種でもあるわけですが、これは釉薬の成分によるものだそうです。
しかも安定させて同じ物を作るのは至難の業。
それでもおよそ同じイメージまで持ってくる作り手の努力に感謝しなければと深く思うのでした。
濁りとは素敵な模様のひとつでもあるというお話しでした。