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鉄紋「鉄ちゃん」のお話し
今回は「鉄ちゃん」のお話し、といっても鉄道マニアのお話しではありません。
【おとなの和食器屋 さんすい】から日々送り出される和食器たちのほどんどには、大小多少の違いはありますがほぼすべてのお品に小さな黒い点があります。鉄紋や鉄散(てっさん)と呼んだりします。
このページでは可愛く「鉄ちゃん」と呼んでみます。
鉄ちゃんの正体
これってなぁに? とのお問合せをいただきます。
小学生のころ、砂場に磁石を持ち込んで砂鉄拾いをした経験がある方も多いかと思いますが、結構たくさん砂鉄が採れますよね。
実は器の黒い点(鉄ちゃん)の正体は、あの時の砂場のあの鉄分なんです。
だから貧血の方にお勧め・・・ ←嘘です騙されてはいけません(n_n;女将 コラッ!
すいません。。。ここからは真面目に・・・
鉄ちゃんは好き嫌い
鉄ちゃんの生い立ち
実は器を作る土も、砂場の砂と同じで鉄を多く含んでいるんですね。それで器が高温で焼成される時にヒョッコリと顔を出すんです。
これはいわゆる土物和食器(陶器)の原料の粘土のお話しで、いわゆる磁器(石物和食器)はこの鉄分の極めて少ないガラス質の白い陶石に鉄分の少ない粘土を少し混ぜて作ります。 だから磁器の器にはほとんど鉄ちゃんは見えません。
陶器でも、粉引きなどのように白である事が絶対な器を作る際は、器の原料である土を精製したり、混ぜる砂に磁石を這わして鉄分を除いたり(これを脱鉄といいますが)様々な事も行われるようです。
器を焼く際には、できる限り酸素を少なくして焼成する「還元(かんげん)焼成」を行うと土の中の酸素が引っ張られて鉄分などの成分が表面に出やすくなるとの事で、つまり「鉄ちゃん」も顔を出しやすくなるわけです。
逆に顔をだしてほしくない時は酸素を十分に窯に入れてあげて「酸化焼成」を行う事が多いのです。鉄は大人しく素地の中に潜みます。
土物和食器の味わいを出そうと毎回同じように還元焼成していても、毎回微妙に違うコントロールが本当に難しいと作り手の皆さんはおっしゃいます。
好き嫌いを超えて
器の使い手(お客様)も、鉄分がでるのを味として好まれる方や逆に全くでない品を好まれる方もいらっしゃるようです。
古くよりその色の白さ無垢な白を追い求めた磁器の産地、例えば九州の有田焼などでは、ほんのコンマ数ミリの模様が付いていてもいわゆるB品となってしまいます。 逆に信楽焼きなど土物和食器(陶器)を作る場合はそれほど気にしませんしむしろ味としてる事が多いです。
磁器ものばかりをご使用になっていた方が、土物和食器をお集めになった頃に必ず一度はぶつかるのはこの「鉄ちゃん」や「釉薬の流れ」など土のなかの成分と窯(熱)などが織りなす表情を不備なものと捉えてしまう事です。 この焼き物の多様性を理解できるようになると視野が大きくなります。 それは組織の中で沢山の方々と一緒に仕事をしたり、公私を問わず沢山の子供のお世話をした方々が持つ深い人間性に似ているといつも思います。
人間性のある器
「器を好きになるのは人を好きになるときに似ている」と私はいつも思います。 次のブロックで美しい粉引きのお話しに脱線していますが、その美しい白でさえよく目をこらすとごく小さな鉄ちゃんが見えます。 私はそれが短所とは少しも思いませんが、人を好きになるのはその人の色々な個性をひっくるめて好きになる事が一目ぼれを除いて(笑)ほぼ100%だと思います。 あの人凄く男らしくて優しくて・・・でも忘れちゃうのよアタシの誕生日。もう! でも好き。 とまぁそんな感じでしょうか。
磁器にくらべ強度・耐久性つまり実用性には劣る陶器(土物和食器)の人気が衰えないのは、そんな人間性?をもつ器だからだと思うのです。
美しい粉引きは綱渡り
ちょっと脱線しますが、還元焼成の具合の微妙なコントロールで、白い粉引だってペンキのような白から、透き通るような美しい透明感のる白が出来上がるわけです。 ところがそれは剣が峰や綱を渡るようなもので、少しの差でオレンジの窯変が沢山出たりします。 もちろんその窯変がお好きな方もいらっしゃいますが。【おとなの和食器屋 さんすい】で最も美しい粉引きといわれる松尾真哉さんの創る器の白がその微妙な還元焼成が創り出す色合いを見せてくれています。
鉄も色々
量産品は土を徹底的に精製する事が多くて鉄分の味はほとんどない物が多いのですが、しかし本来自然な土には鉄分は含まれていて、焼けば必ず見えるものなんです。
さんすいから皆様にお届け器たちは、いわゆる小さな工房で手作りされる器がほとんどで、その自然な風合いを大切にした品々が多いです。
さんすいの器たちの鉄の表情は、そりゃもう色々で・・逆に鉄分を釉薬として使ってしまう事さへありあす。
とまぁ色々な「鉄ちゃん」がいるのですね。
手作りの和食器は、鉄分を様々な表現方法のひとつとして使っているのです。
よろしければ、今回のお話しを思い出しながら食器棚の器たちを眺めてみてくださいませ。 きっともっと愛着がわいてくると思います。
手仕事の和食器は、店主・女将や作り手のコダワリが満載。
食卓でお使いになる時はもちろん、時々眺めてその魅力を再発見してみてくださると幸いです。